古くから日本の暮らしのなかで用いられてきた漆器。国産漆の一大産地である岩手県では、生活の一部として今も多くの人に親しまれています。
創業100年を越える「丸三漆器」は、漆技術の伝統と技を引き継ぐ老舗漆器店。品のあるたたずまいが魅力的な秀衡塗の製造から販売までを一貫して行なっています。
秀衡塗の発祥は平安時代末期にさかのぼります。奥州藤原氏の第三代当主・藤原秀衡が金色堂造営の際に京の工人に命じ、県内の特産である漆と金を使いつくらせた器「秀衡椀」が、秀衡塗のはじまりといわれています。
「秀衡椀」の特徴は、“源氏雲”と呼ばれる雲の形と、複数の菱形の組み合わせでつくられる“有職菱文様(ゆうそくひしもんよう)”が描かれていること。漆独特の上品さはもちろんのこと、艶やかに光る金箔やところどころに配された草花と吉祥の図柄が、より華やかな雰囲気を演出します。
この技術は秀衡塗として伝承され、1985年には「伝統的工芸品」に指定。岩手県内では丸三漆器を含めた3軒が製造を続けています。
「上塗り」や「箔貼り」など、15の工程を経て完成する秀衡塗。大きく分けると、「木地づくり」「下地づくり」「塗り」「絵付け」の4つからなり、丸三漆器ではその全工程を8人の職人で行なっています。
完成までの道のりは長く、最も時間を要するのは原木を切り出し製品の形に整える「木地づくり」。木に蓄えられた水分は割れや変形の原因になるため、加工前に1年~5年もの間乾燥させるのだそう。その後、約3ヶ月の時間を経て美しい秀衡塗の器が完成します。
特別に工房の様子を見学させていただくと、職人一人ひとりの確かな技術が品質の良さを支えていることを実感。
たとえば、土台となる「木地づくり」は、使いやすさを考え器の厚さや丸みを調整。「下地づくり」では木地の表面を平らにするため、研磨を繰り返しなめらかな質感に仕上げています。
研磨中の器を触ると、元が木とは思えないほどつやつやなのですが、職人さんは「まだまだ」と。ちょっとした凹凸やほこりの有無が感触として伝わるのだといいます。
美しさの要となる「塗り」や「絵付け」では、その日の気温や湿度によって漆を塗るタイミングを見極めるなど、まさに職人技。普段漆器を手にとると、その華やかさにばかり目を向けがちですが、そこには使い手を想う職人たちの深い愛情が宿っているのです。
「重厚感がある」「敷居が高い」とイメージされやすい漆器ですが、素材となる木や漆はすべて自然素材を使っていることから、体にやさしく、かつ軽くて丈夫と普段使いに最適。保温性に優れているので器に入れた料理が冷めにくく、長くおいしい状態で味わえるのもうれしいポイントです。
丸三漆器で扱う椀にはさまざまな絵柄があり、伝統の柄を施した椀は味噌汁用に、シンプルなデザインの椀はサラダボウルにと、和・洋どんなスタイルでも楽しめます。お子さんと一緒に何を入れようかなとイメージしながら選ぶのは楽しいひとときです。
若い人たちでも気軽に使ってほしいという想いから生まれた、小物やワイングラス「漆グラス」も注目です。特に好評なのがうさぎとねこの絵柄が愛らしい「スプーン」。表情が微妙に異なるのも手描きならでは。お気に入りの絵柄を探す楽しみがありますよ。
最近ではグラスに絵付けする漆絵体験もスタート。大阪など遠方から訪れる観光客がいたりと好評なのだとか。予約は1週間前まで。少人数でも体験可能なので気軽にチャレンジできます。オリジナルのグラスをつくれば、お子さんにとっておでかけのステキな思い出になりますね。
使ううちに艶が増し風合いが出てくるのも漆器の魅力のひとつ。長い時間をかけ、職人たちの技術と真摯な想いによってつくられる秀衡塗の器を、使い手自身がよりあたたかみのある器へと育ててみてはいかがでしょうか。
熱が伝わりにくいことが特徴の漆器。熱い料理を入れても手で器を持てるので、小さなお子さん用にもオススメです。
傷ができても漆を塗ることで元の美しさに。長く愛用できます。
普通の台所用洗剤で洗ってOK。水気をしっかりと拭き取ることが大事です。