秋田県北部に位置する鹿角市花輪で、毎年8月19日・20日に行なわれる夏の伝統行事「花輪ばやし」。地元で信仰されている守り神「産土神(うぶすな)さん」を祀った幸稲荷(さきわいいなり)神社にお囃子を奉納する、古くから続く祭りです。大町や船場元町といった花輪にある10の町内会が率いる屋台とお囃子のパレードや、屋台がずらりと並ぶ「駅前行事」で、街が夜通し賑わいます。
花輪ばやしは、江戸時代中期から「花輪祭礼」や「稲荷神社祭典」など、名前を変えながら行なわれてきたといわれています。奉納されるお囃子の伝承曲のなかには、平安時代末期から伝わるものもあるそう。
明治時代になると、高さ10メートルもの屋台が登場。舞や芸能が披露されはじめ、華やかな祭りとなりました。現在は、ユネスコ世界無形文化遺産と国重要無形民俗文化財などに登録され、日本三大囃子の1つに数えられています。
お囃子の曲がつくられたのは、おもに平安時代末期、江戸時代中期、幕末頃と考えられています。平安時代の貴族がつくった曲をベースにしたものや、江戸時代の演芸ばやしを編曲したものなどさまざま。行進曲風でテンポのよい「本屋台ばやし」や、笛と太鼓の掛けあいが見事な「二本滝(にほんだき)」といった全12曲が伝わります。町内会によって得意な曲が異なるので、パレードで鳴り響くさまざまな曲に耳をかたむけてみてください。
10の町内会それぞれがもつ、荘厳な屋台もじっくり観賞してみましょう。なかでも大町の屋台は、花輪町内に現存するなかでもっとも古く、1937年につくられたもの。須佐之男命(すさのおのみこと)が八岐大蛇(やまたのおろち)と戦う神話をモチーフにした飾りが特徴で、屋台全体のデザインは、他の町内会がつくる屋台の見本となったといわれています。
祭りはまず、のろしを合図に各町内の屋台が祭りの開始地点「御旅所(おたびしょ)」に集まります。「サンサンサントセ、オササノサントセ、ヨイヨイヨーイ」という独特の掛け声による「サンサ」と呼ばれる手締め式が終わると、屋台はお囃子とともに駅前広場に向かって出発します。
駅前広場に着くと、屋台が一列にずらりと並び「駅前行事」がスタート。各町内会がそれぞれに奏でるお囃子の共演やその審査が行なわれます。屋台の明かりがともるなか、若い衆が大きな円陣を組んで行なうサンサは見ごたえ十分。
駅前行事が終わると、屋台とお囃子に加えて踊り手も引き連れた壮大な「朝詰運行」がはじまり、それぞれの町内まで帰っていきます。
朝詰運行では、自分たちの町内に帰るまでの道中でもイベントが行なわれます。代表者同士による挨拶やお囃子合戦、時には神輿のぶつかりあいなど見どころがいっぱい。朝方、屋台を納める「桝形(ますがた)」に到着すると、華やいだパレードから一転して厳粛なムードに。お囃子は静かな曲に変わり、神事が行なわれると空気が引き締まります。
2日目には、駅前行事のあとに幸稲荷神社へ向かい、赤い鳥居の前で最後のサンサを行なう「赤鳥居行事」を披露。御神体を返し、神様に挨拶をして2日間にわたる祭りに幕が下ろされます。
花輪の夏の夜を華々しく飾る「花輪ばやし」。地元の人々が誇る、熱気に包まれた豪華絢爛な伝統行事を見に訪れてみましょう。
1日目の昼間は「花輪ばやし子供パレード」を開催。地域のお子さんたちが屋台を引いて、お囃子と踊りを披露しながら街なかを練り歩きます。
事前に申し込めば、祭り1番の見どころ「駅前行事」を座って観賞することができます。応募者が多い場合は抽選になるので注意が必要です。
雨天決行なので、雨具を準備しておくと安心。ただし、伝統芸能の舞は状況によって中止となる場合があるので注意してくださいね。