かつて物流を支えた北前船の寄港地として栄えた山形県酒田市。日本海に面した港町で、旧庄内藩主・酒井家によって建てられた米の保管用倉庫「山居倉庫」や、貴重な歴史的資料を展示する武家屋敷「本間家旧本邸」など、歴史情緒あふれるスポットが点在しています。
酒田市に訪れた際、ぜひ目にしてほしいのが「傘福」。福岡県柳川市の「さげもん」、静岡県東伊豆町稲取の「雛のつるし飾り」とともに、「日本三大つるし飾り」のひとつに数えられています。
「傘福」の歴史は古く、江戸時代後期にさかのぼります。
十分な食べものが得られなかったり、薬が行き渡らなかったりと、満足のいく暮らしを送ることが難しかった時代。地域の女性たちが寄り合い、家族が幸せに暮らせるようにと願いながらつくった細工物を傘につるし、神社仏閣に奉納したことが「傘福」のはじまりと言い伝えられています。
細工物を傘につるしたのは、当時“傘の中には魂が宿る”といわれていたことから。大きなものでは、ひとつの傘福に999個もの細工物を飾るというから驚きです。1本の紐につるす数は奇数と決まっていて、“飾り物に込めた想いが割れないように”という意味があるそうですよ。
細工物の種類は約100種類。赤ちゃんをモチーフにした「おくるみ人形」は子どもの健やかな成長を、魔除けの効果があるといわれる赤色の布でつくった「さるっ子」は災いや病が“去る”ようになど、ひとつひとつに願いが込められています。
現在は市内に暮らす約10人の女性たちが傘福の製作を行なっています。当時と変わらずすべて手縫いでつくられ、簡単なものでも1時間、手の込んだ細工物だと完成に半日以上もかかるのだそう。丁寧につくられた細工物からは、傘福に込められた“誰かを想う心”を大切に守り、次の世代につなごうという気持ちが感じられます。
傘福を見たい!という方は、JR酒田駅から車で10分ほどの場所にある「山王くらぶ」へ。1895年に建てられた老舗料亭で、現在は傘福の常設展示や、人形作家・辻村寿三郎氏の人形展示などを行なう観光施設として親しまれています。料亭であった当時の意匠を残す1階は、手の込んだしつらいの「床の間」、「組子入建具」、「襖の引き手」など見ごたえバツグン。格式ある建物は、国の登録有形文化財にも指定されているんですよ。
2階の「傘福の間」には、愛情を込めてつくられた傘福がズラリ。その美しさと迫力に、お子さんも見入ってしまうかもしれませんね。
見学のあとは、館内の「体験工房」で傘福の製作体験(要予約)にチャレンジしましょう。つくる細工物は、うさぎや花、宝袋など8種類から選ぶことができ、1時間30分ほどで完成します。難しいところはスタッフが手伝ってくれるので、小学校低学年くらいのお子さんでも安心して挑戦できますよ。
また、毎年2月下旬から、山王くらぶを会場に傘福の特別展「湊町酒田の傘福」が開催されます。庶民の切なる願いを託した「信仰の傘福」や、ほかでは見ることのできない商売繁盛を願った「宝つくしの傘福」など、106畳の大広間に50点以上もの傘福が並ぶ光景は圧巻。人々の幸せを願う「傘福」の文化を体感しに、酒田を訪れてみてはいかがでしょうか。
山王くらぶ内にある売店「かぜまちや」では、傘福に下げられる細工物を根付け(ストラップ)にしたものなどを販売しています。おみやげにオススメです。
山王くらぶ1階の各部屋は、「夢二の間」や「北前船の間」など、さまざまなテーマに分けられています。部屋ごとに異なる意匠や展示を眺め、酒田の歴史と文化を感じてみては。
山王くらぶの周辺には観光スポットがいっぱい。「日和山公園」の入り口に建つ「日和山小幡楼」でカフェタイムを過ごしたり、「舞娘茶屋 相馬樓 竹久夢二美術館」で酒田舞娘の演舞を鑑賞したりと、のんびり楽しみましょう。酒田駅前ではレンタサイクルの貸し出しも行なっています。
所在地 山形県酒田市日吉町2-2-25
電話番号 0234-22-0146
営業時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
定休日 火曜(12~2月)、年末年始。3~11月は無休
駐車場 あり(無料34台)